2008年4月20日日曜日

工事進行基準でIT業界が痛い目を見る日

IT業界が工事進行基準導入を自衛のための言い訳(お客さんの機能追加要望を突っぱねたり、仕様変更として追加開発費用を要求するなど)にするのでは?
というところまでが前回のお話。
でもまあ、これ自体は悪い事では無い。開発終盤になっての機能追加要望なんて、システム屋からすれば
「今更そんなこと言うなんて勘弁してよ。そういう要望は最初っから言ってよ。」
という話だし、当初の予定には無かった追加作業に対しては、しっかり代金を頂戴するのが商売としては正しいからだ。

だがしかし、工事進行基準を単なる言い訳として利用することで、逆にIT業界にとって都合の悪い展開になる可能性があるのではないだろうか。
それは「費用見積や作業進捗が明確になることで、ダンピングが発生する」という可能性だ。

そもそも、お客さんの機能追加要望を断ったり、追加費用を取ったりする事は、お客さん側からすれば
「何で機能追加できないの?本当にそんなにお金がかかるの?」
という疑問を抱くだろう。
さらに突っ込めば
「システム屋の言うことは妥当なのだろうか?」
と考えるはずだ。
だが、お客さん側がこの疑問に対して
「システム屋の言ってることがおかしいじゃないか!」
と突っかかってくる事は、現実には少ないのではないだろうか。
なぜなら、お客さんはシステム開発の事はあまりよくわからないからだ(SIerと張り合えるだけの知識・技術を持ったシステム部門を持っているユーザー企業って、それほど多くないだろう)。
結局、システム屋に言いくるめられて、釈然としない気持ちを抱いたままその場は終わってしまうのだろう。

だが、もしここでお客さん側に「機能追加可否や追加費用の妥当性」を判断できるだけの力が備わっているとしたらどうなるだろう?
システム屋が機能追加を安い費用で請け負わされるケースが増える事は当然だが、そもそも最初の開発費用見積から妥当性を細かく調べられ、コストを削られてしまうのではないだろうか。
そうなると、システム屋としては開発原価を切り詰めるため、人件費削減に走るだろう。それは下請け会社を叩いて搾り取る事で実現されるのかもしれない(ただでさえ安く買いたたかれているというのに・・・)。

この「お客さん側が力をつけることによって、開発側がダンピングに追い込まれる」という話、建設業界で実際に起きている事なのだそうな。
ここ1~2年、マンション建築が盛んに行われているにも関わらず、建設業界は利益率が激減しているらしい(2004年→2008年で、大手ゼネコン4社の売上総利益率が8%→5%に下落)。じゃあいったい誰がマンション建築ラッシュの恩恵を受けているのかというと、発注者である不動産会社だそうで、その秘訣は「CM方式」の導入にあるのだそうな。

「CM」とは「Construction Management」の略で、工事発注者の立場で施工業者の選定、予算・スケジュール・品質管理などを行うコンサルティングサービスのこと。
日本では、建設プロジェクトをゼネコンが一括請け負いするのが普通だが、欧米では発注者がCM会社と別途契約し、CM会社に建設会社をチェックさせるのが一般的らしい。
この欧米のCM会社が、98年汐留再開発の際にCM業務を受注したのをきっかけに、不動産会社がCM方式に着目。近年のマンション建築においてCM方式を導入することで、建設コストを削らせることによって、不動産会社が利益を拡大しているのだそうな。

IT業界の開発プロジェクトでは、未だ建設業界のような状況にはなっていないが、CM方式を持ち込んでくるコンサル会社は出てくるかもしれないし、それによってお客さん側が発注力をつけてくるかもしれない。
何より、「工事進行基準導入により、費用見積・進捗管理を厳密にする」というのは、開発プロジェクトの内容をガラス張りにすることであり、CM方式によるコスト叩きには格好の材料なのだ。
そういう旨味を見逃さない人間は必ずいるはずだ。

発注者によってコストを叩かれて、利益を出せなくなった建設業界では、下請け会社を中心に倒産が相次いでいるらしい。中には経営苦により自殺する経営者もいるのだとか。
我々、日本のIT業界は「ゼネコン体質」とか「労働集約的」など、建設業界と似たものとして論じられる事が多い。
その「お隣」である建設業界のような悲惨な状況にならないために、今後どうしていったらよいか?
考えていきたい。



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